鉱石と鉱物の違い

以前にも書きましたが再掲。


鉱石 (ore) は、目的とする鉱産物(元素の場合もあれば、化合物の場合も)が、選鉱精錬のコストを引いても黒字になり、産業活動が可能な地下資源のことを指します。
例えば、銅鉱石 (copper ore)。
この中に、どのような化学種で銅が含まれていてもよいのです。どういう形態かで選鉱精錬の手法が変わってくることはあるのですが、基本的には鉱物種はどれでもかまいません。
塩化物だろうが単体だろうが、ケイ酸塩だろうが硫化物だろうが炭酸塩だろうが、ペイできればなんでもいっしょくたの「銅鉱石」なんですね。
もちろん混じりでもかまいません。というか混じりの集合状態を表現した用語です。
厳密には、鉱業法で規定された鉱業的な資源のみについて使える言葉なんですけど、これはお国によって違うので。
ほんのちょこっと目的とする元素を含む石ころってのはいくらでもあるのです。これでは金儲けはできませんが。


鉱物 (mineral) は、天然の化合物もしくは単体で、きちんと一定の組成と結晶構造を持つものを指します。
固溶体という問題を考えなければ、基本的には純物質をあらわします。
先の銅鉱物 (minerals of copper) でいうと、アタカマ鉱とか自然銅とか翠銅鉱とか輝銅鉱とか炭酸青針銅鉱とか、とにかく中に含まれる一定組成の結晶性物質についてコダワルのです。
儲かるかどうかを尺度とした鉱石とは全く別の考えです。
中に含まれる、個々を構成する最小単位の成分についての表現です。
銅鉱石は、ある程度の量があればその中から銅を取り出し儲けることができますが、銅鉱物を含んだ標本は、精錬しても儲かるかどうかわかりません。むしろ大部分の標本はコスト計算したら大赤字でしょう。


この違いは立場の差によるものです。
前者は、鉱業による産業的な用法で、後者は鉱物学や無機化学などの学術的なもの。
マチュアが好きなのは泥っぽい前者ではなく、ロマンのある後者なのです。


で、これが大事なのですが、日本の学者さんは清貧をもって善しとする体質が古くからあるのです。
自分の研究ターゲットを売って自分の懐にお金が入るというのを嫌う風潮があるんですね。
学者さんが売って生活費を稼ぐものは、あくまでも研究成果であり、データであるという考えです。
この考えが鉱物アマチュアに伝播伝染しているので、金儲けをベースとした「鉱石」という言葉に深層心理で過剰反応する傾向があります。
私のメアドに「はじめまして!私も鉱石採取が好きなんですよ!今度一緒に行きましょう!」って若い女性からメールが入ったとしても、私は「鉱石?ちょwwwwおまwwww」という気分になりますヨ。
ある程度勉強している人だったら、「鉱石」と「鉱物」の使い分けができていないというのはあり得ません。
もうちょっと上のレベルになったら、笑って聞き流すことでしょうが、私はそのレベルにはありません。
もちろん、鉱石でもあり鉱物でもあるものはいっぱいあります。
鉱石には必ず鉱物を含みますし。
本当に「鉱石採取」が好きな人もいるかもしれません。
家に黒鉱の大塊がゴロゴロしている女性もいるかも。
しかし、「あいつは鉱石集めが好きなヘンなやつなんだ」と無理解人に陰口を叩かれたら、「お前は何一つわかっとらん」と反論したくなるのは確かでしょう。


なお、鉱物標本 (mineral specimen) は、さらに視野が狭まります。
私は「その鉱物の性質、形態、産状もしくは共生関係のいずれかあるいはいくつかを提示するに足る品質の鉱物種を内包し、適当なサイズに切り取られ、産出に関する情報が付随しているもの」だと考えています。
私が好きなのは「鉱物標本」を採集し、蒐集することなのです。


鉱物マニヤは気難しいのです。