日本で一番きれいなサファイア

「知らないほうが幸せなこともある」という先人の教えにのっとって、はぐらかそうと思っていたのですが、当日記の読者はそんなにおしとやかではないらしいので、こっそりと穴虫のサファイアについての真実を書きます。


奈良のはずれに二上山という山があり、この山を構成する安山岩の中の捕獲岩片中に、鋼玉(コランダム)が含まれているということが戦前に報告されました。
この安山岩の風化土砂には安山岩中のざくろ石(アルマンディン)が含まれていますが、これに紛れて青色のコランダム、いわゆるサファイアが少量ながら混在しています。
このざくろ石を、以前は穴虫というところで盛んに掘っており、磁力選鉱後の捨石の石英の多い砂に、サファイアが含まれています。
これを取り出す、という話です。
今回は、Tさんに大量の砂を送ってもらいました。
ありがとうございます。この場をお借りしてお礼申し上げます。


前にもちょっと砂をもらって、分離したことがあったのですが、今回、多量の砂を頂いたので、ここからベストのサファイアを拾います。
ここのサファイアについては、故草下氏の「鉱物採集フィールドガイド」に、紙に広げて日向でじっくりやれって話があるのですが、これを踏襲しました。
ただし、科学は進歩するもの。古い本に書かれているのそのままというわけにはいきません。
それに、曇っていたら拾えないなんて、非効率極まりないです。
今回、この問題を解決するために鋭意努力し、新しい装置を開発発明いたしました。
「全天候型穴虫砂攻略装置 PF-4 改良型」、通称「全穴攻め4号改」です。
anamushi_sapphire_1
これなら深夜に黙々とサファイアを拾えますね。


この上に光沢のあるポスター紙を敷き、一方を両面テープで止め、砂を広げます。
anamushi_sapphire_2
よく拡大して見ると・・・
anamushi_sapphire_3
なんか青いのがいる!けっこういっぱい入ってる!
とはいえ、重量比を出したら1%以下でしょうけど。


これを拾っていきます。
サファイアはおよそ 2mm 内外の六角板状の結晶で含まれています。薄いので指ではつまめません。
ピンセットではエッジが欠けるし、つかみづらいことこの上ありません。
そこで、微結晶を拾うのを仕事にしている私が、攻略法をあみ出しました。
箸の先を濡らし、これをサファイアにくっつけると、表面張力で結晶が引っ付いてきますので、コップの中の水に放ち、外します。
で、箸の先の水滴が大きすぎると、これが砂に吸われて砂がダマになってしまうので、含ませる水は少ないほうがいいのです。
私は、自分の鼻先に濡れた箸をくっつけて水の量を減らし、これで拾ってます。
つまり、

  1. 箸を水に付ける
  2. 箸を鼻先に付け、水を減らす
  3. サファイアをくっつける
  4. サファイアの付いた先端を水に付け、サファイアを外す

この繰り返しです。慣れると1サイクル2秒。
完璧にサファイアのみを拾おうとすると、無駄に時間を食います。
ラフな選鉱が一番。砂鉱の完璧な選鉱ってのは歩留まりが悪いのです。


10分も拾うと、コップの底はこんな感じ。
anamushi_sapphire_4


忍耐の限界まで拾ったら、このサファイア入りの水をコーヒーのドリップフィルターで濾し、乾燥させ、広げます。
anamushi_sapphire_5のコピー
けっこういっぱいいるなぁ。


これを、今度は腰の硬いポスター紙をクサビに切り、先を折って二等分した極小スコップで拾い、ルースケースに並べます。
anamushi_sapphire_6



このうち、エッジの欠けが少なく、キレイな六角板状の結晶が20個に1個ぐらいの割合で入っているので、これを写真に撮るためにさらに選別します。
sapphire_anamushi_2


sapphire_anamushi_1
倍率は10倍前後で撮影しています。


結晶表面の三角形と、裏側の三角形が 180度ひっくり返しなのがわかりますか?
けっこうインクルージョンが入ってますね。固体もあれば液体もあります。


こんな感じです。楽しいんですけど無性に目が疲れます。
お金のある人はズーム型双眼実体顕微鏡(広視野)+真空ピンセットの方がいいかも。