鋭錐石(anatase)

anatase


天然の二酸化チタンには3つの多形(昔は同質異像と言った)があり、一つは rutile, もう一つは anatase, 最後が brookite と呼ばれています。
和名ですと「金紅石(ルチル)」「鋭錐石」「板チタン石(ブルッカイト)」となります。
で、tetragonal の相 II の「鋭錐石」anatase の呼び名なんですが、触媒屋さんは「アナターゼ」、石屋さんは「アナテース」と一致しません。
両者とも頑なにそれぞれの伝統を守り続けるのはなぜ?


光触媒として様々なところで用いられるようになった二酸化チタンですが、多形によってバンドのレベルが違い、特性もまったく異なります。
二酸化チタン自体はそれよりずっと前から用いられていました。
化粧品などには多く入っていますね。
以前ちょっと書いたのですが、チタンの微量分析をやっているところで、たまに分析値がどうしようもないぐらいグシャグシャになってしまうことがあり、ほとほと困っていたんだそうです。
で、その原因を突き止めるためにある偉い先生が呼び出され、しばらく考えて、分析値と職員の動向の相関を調べたところ、ある女性職員が分析室で仕事をするとデータが狂うということがわかったんだそうです。
原因は彼女の化粧です。チタンホワイトが入っていたのでしょう。
そのぐらい微量−超微量分析ってのは検出限界が低いのです。


粉にすると真っ白になる二酸化チタンも、もっと大きな結晶になると、いろいろな色を示します。
ルチルは赤−金色系が多いです。アナテースは青系−茶色系、ブルッカイトは茶色ですね。
アナテースは群青色−茶色のゾーニングを示すことがしばしばあって、茶色なんだか青なんだか色が濃すぎてよくわからないことも。
この結晶もそんな感じです。中のひび割れからの透過光は茶色−赤色なんですが、結晶の右側は青っぽくて、へんてこ。
天然ではしばしば二酸化チタンの多形は同居します。
成長条件がほとんど同じなのに、どうしてエネルギーの異なる二つ以上の結晶相に別々に結晶化するのでしょう?


ちなみに上の四角形の底面は (001), それ以外の錐面は段々に波打った (110) です。
tetragonal だからあとはみんなおんなじ。
底面が出ないと四角両錐になり、いかにも「鋭錐石」って名前に負けない鋭い結晶を作ります。
乙女鉱山では水晶の表面に、底面がひどく育った座布団みたいな鋭錐石結晶がくっついているのがよく落ちています。


(crystallographic data)tetragonal, I41/amd
(photo eq)Macro Nikkor 65mm F4.5 (ap. = 5)/Multiphot/D3