古い標本ふたつ

真珠雲母 (margarite)木浦鉱山ナバガサコ 550m坑。
margarite_kiura_mine


ありそうでないもの。ナバガサコのマーガライトの良品。
いつでも手に入ると思うと、そうでもないよという見本。
クリーニング前でゴメンナサイ。これも20年も前の標本です。
キレート剤でさっくり鉄を抜こうっと。


植物のマーガレット(Marguerite)はつづりが違いますが、ちょっとお花っぽいでしょ?
わずかずつ結晶方位がずれた六角薄板状の結晶の集合です。
なんで真珠雲母というのか知らなかったんですが、ギリシャ語では真珠のことを margarite というみたいです。
ヘキ開のために真珠光沢に見え、これを真珠にあてているもののようです。
スペイン語ポルトガル語表記では、カクテルと同じ「マルガリータ (margarita)」。カクテルのほうは女性の名前由来みたい。


カルシウムの多い雲母です。珍しいことにアルカリ金属マグネシウムはいっさい含まれていません。
なかなかいいものがなく、木浦鉱山茸ヶ迫(ナバガサコ)は筆頭産地。
九州では、椎茸のことを「ナバ」って言います。
椎茸の多い沢って意味のようです。
じゃあ、駄積形尾(ダツガタヲ)は?って聞かれても困りますが。たぶんあのヘンな形の尾根の地形表現です。
ヌメリショードとか、よくわからん地名が多いのよね。


この標本を採集したときは、エメリー鉱山で晶洞の多い鉱体に当たっていて、坑口の横に山と積んでありました。
新鮮でギラギラ銀色磁鉄鉱(銀色すぎて磁鉄鉱だと気付かなかった)、大量の真珠雲母、フェルバイト、よくわからない緑泥石の結晶、とにかく結晶の山だったのです。
エメリー鉱石に混ぜると質が下がるので、軽く手選したものだったのでしょう。
鉱山事務所のオジさんがジムニーでここまで乗せてきてくれ「いくらでも持ってっていいよ」というのにもかかわらず、私は小さなみすぼらしい石をいくつか拾っただけでした。
だって、そのあとに峠を越して、日之影の駅まで背負って歩くんですもの。
重い石なんか持ちたくないよね。って、なんのために採集に行ってるんだか。
今考えれば、事務所で新聞紙の束を貰って、箱詰めして安藤さんちから宅急便で家まで送ればよかったんですね。
この真珠雲母って、なかなかいい結晶になりづらく、木浦のモノは世界的に見ても質が高いと知ったのはずっと後でした。
その後、鉱山は閉山になったと聞いております。
大事に大事に新聞紙にくるんで、霧の峠をえっちらおっちら登って見立に抜けたのが、懐かしいです。


ダイピング石(群馬県藤岡市
川沿いの変成岩の露頭に地下水が染み出るところがあり、マグネシウムの炭酸塩が現在進行形でできています。
dypingite_and_moss
草っぽいのは苔です。
現生の苔にマグネシウム炭酸塩が覆いかぶさり、必死で伸びようとするんですが、もうだめ。
埋まってしまいました。
ほら、銀河鉄道999に「化石化ガス雲」ってあったじゃないですか、あんな感じ。


鉱物の結晶の成長は、何万年もかかるのもあれば、数ヶ月もかからないのもある、ということです。
虫の死骸とかもダイピング石化(といっても被覆なんですが)しているんですよ。


(めも)margarite; Nikon Macro Nikkor 12cm (ap = 3)/Multiphot/D3
dypingite; Carl Zeiss Luminar 63mm/Multiphot/D3