水晶の日本式双晶

さらに試行と検討。
Japanese_law_twinning_of_quartz3
(Crystallographic Params.) trigonal, P3121
(Locality) Japan
(Photographic Data) Macro Nikkor 12cm F6.3 (ap. 3.5)/Multiphot/D3


石英は、地殻の中に含まれる元素のトップ1(酸素)とトップ2(ケイ素)の化合した二酸化ケイ素を成分とする鉱物で、地殻中に3番目に多く存在(体積で 18%*1)し、非常になじみ深い石ころです*2
石英のうち、自形の結晶形を示すものを水晶と呼びます。
これ、いつの間にか名前がひっくり返っていて、昔は塊状の二酸化ケイ素を「水精」、自形結晶のものを「石英」と呼んだとのこと。
石英(いしのはな)ですから、名前負けしてません。


二酸化ケイ素には多くの双晶が知られているのですが、長軸(c軸)が角度を持って交差しているような双晶を「傾軸式双晶 (inclined-axis twinning)と呼びます。
Dana の本 "The System of Mineralogy"をハーバード大にいた C. Frondel が改訂した際に、この石英の傾軸式双晶について10種ほど紹介しています。
最も有名なものはこの「日本式双晶(Japanese-law twinning)」で、ちょうど (11-22)*3面が向かい合ったように接触している双晶です。
c軸どうしの角度は84°33′。
この双晶、文献初出は Weiss が La Gardette *4のものに見出したとあります。これが1829年*5
で、明治期に乙女坂鉱山(山梨県)、奈留島長崎県)で多く産し*6、これを研究した結晶学者の Goldschmidt が「日本式」と名付けたとされているんですが、初めて「Japanese-law」の名前が出てくる論文につきあたってないので、まだ未確定。
Dana の本にあるのは、乙女坂のものでしょう。
dana
とにかく乙女はきれいででかいのが多く産したらしく、面角も測りやすかったでしょうから、「日本式」の名が付くのは当然。
この頃の標本は10−20cmクラスが多いです。


こちらは5年ほど前に出回った、アフガニスタン紫水晶の日本式双晶です。
有色の日本式双晶はほとんどない、と以前は言われていたのですが、煙水晶には時折見られましたし、紫水晶についてはマダガスカルのものが多産し、完全に値崩れを起こしました。
アフガンツインは最近見かけないですね。
Japanese_law_twinning_of_amethyst
(Locality) Kandahar Afghanistan


板のような形状になりやすく、周りの非双晶の水晶よりも大きく育ちやすい傾向があります。
これについては砂川先生は「凹入角効果」という概念をもって説明を試みています*7しています。
双晶というのは、原子配列(結晶構造)の三次元のボタンの掛け違えなのですが、掛け間違えるきっかけは、ある種の共存イオンによるところが多いようです。
乙女などでは、鉄イオンが重要な役割を果たしている感じですね。

*1:K. H. Wedepohl, Geochemistry; Holt, Rinehart, and Winston: New York, 1971; p 67.

*2:最も多いのは長石だとされていますが、長石は地味なのであまり認識されません。風化しやすいですしね。

*3:ξと呼ばれる面なのですが、めったに出現することがない面です。

*4:ラ・ガルデッドというのはワインで有名なんだそうです。http://www.espacestemps.net/document2109.html

*5:C. S. Weiss, Abb. Berl. Ak., 1829

*6:Lewis, Cryst., 1899, 525

*7:Journal of Crystal Growth (1983), 65(1-3)))。 一番上の写真は典型的なハート型、図のようなものは軍配型と呼ばれ、マニアが喜びます。 乙女鉱山の軍配の母岩付き、しかも立ち姿が良いものなんていうと、かなり稀少なものです。 二つの結晶の柱面が完全に平行になるのが特徴です。 必ずしも同一平面になるとはかぎりません。 この間のものは、洗浄前で汚れていますが、そこら辺がよくわかります。 Quartz (Japanese-law twinning) (Locality) Kobushi Mine, Kawakami, Nagano 二つの結晶の境目は、アンモナイトを真似て「縫合線」と言われることがあります。 twin (Locality) Tamayama gold mine, Rikuzen-takata, Iwate なぜこういった双晶ができるのかというのは興味深い問題です。 水晶の傾軸式双晶は個体数では水晶全体から考えれば非常に少ないものの、ある産地では晶洞の水晶のほとんどが日本式双晶であるようなケースも見られます。 これは、結晶核形成時に、何らかの条件がそろうと双晶の核ができることを示しています。 実験では、92年にペンシルバニア大の Breval らが、濃厚アルカリ水溶液に二酸化ケイ素と酸化カルシウム酸化アルミニウムを溶かし込んで60度で核を作らせると、非常に多くの日本式双晶の結晶核(一緒に、フリーデルの直角双晶もできるらしい)ができると報告((Journal of Materials Science Letters (1992), 11(23), 1594-5