日本のトパズ

「トパーズ」という名でよく知られる宝石鉱物 Topaz(トパズ)、実は日本はかつて世界を代表する産出国だった。
代表産地は田上山(滋賀)および苗木地方(岐阜)。そのほかにもきれいなトパズを産する産地はちらほら。
明治期は、田上山の沢の川底で湯飲み茶碗大のトパズがゴロゴロ採れ、カマスにつめて下ろしたらしい。
今でも、きれいなものを採る人がいる。
国内産出の最大の結晶は、田上山、中沢晶洞のものだろう。
この間のショーで出ていたが、きれいな黄色で幅20cm以上あった。
アレはすごかった。
今井さんの持ってる黒平のイエローのトパーズも、すごい写真だったね。


こちらの標本は、田上山でかつて産出したもの。
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トパズ (topaz) Al2(SiO4)(F,OH)2, orth., Pbnm
滋賀県大津市田上山
東京大学総合研究博物館蔵 (登録番号 21027)
標本高: 4.8 cm
Nikon Zoom Micro Nikkor 70-180mm/Nikon D3


斜方晶で、庇面式と呼ばれる、家の屋根のような結晶を形成しやすい。
断面は水晶とは違ってふくらんだ菱形。
色は淡いシェリー酒色と、水色が入り混じっている。
部分によって、その二色が分かれているのを示したのが三枚目の写真。
このカラーゾーニングは、福地により指摘されたのだけれど、この標本はかなりはっきりしている。
強い照明を当てておくとこの色は抜けてしまうので、きちんと色が残っているところがすごい。
結晶面の上に見えるわずかな凹凸は、結晶の成長丘。
横にあるいくつかの切れ込みのようなものは、雲母(おそらくチンワルド雲母)がめり込んでいた跡だろう。


こちらは苗木のもの。
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岐阜県中津川市苗木
東京大学総合研究博物館蔵 (登録番号 20562)
標本: H 6.9 cm x W 7.0cm
Nikon Zoom Micro Nikkor 70-180mm/Nikon D3


トパズはハロゲンおよび水酸基をアニオンとして含んだアルミニウムのケイ酸塩で、石英などに比べて成長後に再溶解しやすいらしく、しばしば溶けているものが見られる。
これもそうで、頭の庇が完全に溶けてしまっている。
やはり、シェリー酒色と水色のバイカラーになっているのだが、そのパターンが田上山のものとちょうど逆になっていることに注目されたい。
何でこのパターンが付くのか、いまだによくわかっていない。
溶けた凸凹の模様を蝕像というのだけれど、最後の写真でははっきりと円錐を形成しているのが見られる。この円錐の頂点は、結晶構造がしっかりした欠陥の少ない部分。
天然の鉱物の結晶は、エンタルピー的な問題から、結晶格子の欠陥の多いところから成長が始まり、逆に再溶解する際には欠陥の多いところから溶け始める。欠陥の少ないところが溶け残る。
美しい単結晶でも、蝕像を見ると多くの欠陥が含まれているのがバレバレ。
しかし、欠陥として馬鹿にしてはいけない。
格子の欠陥がないと、結晶成長がものすごく遅くなるし、トパズの色も付かなくなる。
ほんのわずか乱れた部分を含む、これが結晶の秩序を大きく支えている。


社会もまた然り。きれいごとだけでは話が何も進まない。