超接写を基軸とした鉱物の微小結晶コレクティングのすすめ

この日記も1000日近く書き、鉱物関係の方もずいぶん覗きに来てくれるようになりました。
どうもありがとうございます。
そこで、一つ、提案というほどではありませんが、別の見方での鉱物採集のスタイルのすすめを書いてみたいと思います。
ご意見、ご感想などありましたらお気軽に。


写真は無名産地の andradite(灰鉄ざくろ石)です。
ごくありきたりの、どこにでもある鉱物です。

きれいです。透明でつやつやで、条線がアクセントです。
でも、この結晶の大きさはわずか1mm。ルーペで見ないとはっきりわからないサイズです。
こんな小さな結晶でも、拡大して撮影すればここまできれいに写ります。


この写真は一眼レフのデジタルカメラに、「ベローズ」という名前の蛇腹を付けて、むちゃくちゃ安いレンズ(1000円で買いました)を付けて撮影したものです。
古典的な接写方法ですが、そこそこきれいに写真が撮れます。
私は駆け出しなので、写真は下手くそですけれども、そこはツッコまないでね。
微細な鉱物でも、肉眼で楽に確認できる(1−2mm程度の)大きさがあれば、最低限(一眼レフ+レンズ+ベローズ+ライト)の組み合わせで、写真が撮影できます。
もちろん工夫は必要ですよ。標本を固定したり、カメラをぶれさせないようにしたりと。
それがまた楽しいんです。写真に如実に出ますし。
また、小さな結晶を撮影するのは、光学の知識や、カメラに対する知識と経験も必要です。
たとえば、この結晶はレンズの絞りを f = 11 と絞って、レンズの光軸付近の光線のみでピントが合う被写体の深さ(被写体深度)をかなり稼いでいます。
これ以上絞ると、光の回折のために解像度がてきめんに下がります。
これ以上開けると被写界深度が稼げず、結晶の前後で合焦せずにボケボケになります。
ちなみにこのぐらい絞ると、光量不足のためにシャッタースピードをものすごく(1秒とか)遅くする必要があります。
そのため、がっちりと撮影機材を固定しなければなりません。
そういう点では、やはりサイズの大きい結晶は撮影が楽です。
結晶サイズが5cmあれば、その結晶のかなりの奥行き領域を合焦させることができます。
小さい結晶はなかなかそうも行きません。そこにジレンマがあり、楽しさも同居します。


頑張って産地でハンマーを振るって、でかい結晶を採れば被写界深度の問題は解決できます。
しかし、鉱物の結晶というのは、サイズが大きくなると指数関数的にその個体数が減りますし、美しい結晶の割合も少なくなってしまいます。
妥協できるサイズとして、結晶の大きさが5mmあれば、まあ被写界深度をそれほど気にせずに写真が撮れるという結論に達しました。倍率ですと3倍程度。
5mmというサイズが大きいか小さいかは、もちろん鉱物種によります。
水晶なら米水晶レベルですが、草地鉱なら世界最大の途方も無い巨晶です。
大きくてきれいな結晶は、もちろん採集するとものすごく嬉しいのですが、そう簡単には転がっていません。
Common な鉱物なら、小さなものならいっぱいあります。
産地の露頭で一日粘らなくても、付近の転石に入っているんです。
余った時間を利用して、誰も相手にしなかった付近の別露頭で小さな鉱物探しをするのも有意義な活動です。
狙い目としては、方解石で充填された5cmの晶洞なんていいです。最高ですよ。
塩酸で方解石を溶かせば、新鮮で美しい結晶がゾクゾク顔を出してきます。
そもそも、日本の鉱物は一部を除いて、大きくてすばらしい結晶が少ないのです。
ブラジル産の巨大な結晶鉱物に比類する標本を日本で探すのは、やはり無理があります。
小さくても多数の鉱物が産出し、希少なものも美しいものも含まれているのが日本の鉱物種の特徴ではありませんか。


私は接写を初めてから、鉱物採集のスタイルがだいぶ変わりました。
大きいものよりは、完全で面の揃った、美しい小さな結晶を探すようになりました。
その気になると、みんなが見向きもしないゴロタ石の中に、小さな美しい結晶を多数見つけ出すことができます。
これをルーペで一つ一つチェックし、雨の日に家でじっくりと写真を撮るというのも楽しいものです。


この種の微小な鉱物コレクションは、今までは標本のサイズで区分して、サムネイル標本とか、マイクロマウント標本と言われました。
マイクロマウントですと、双眼実体顕微鏡で楽しむスタイルです。
本件は標本サイズにはこだわりません。被写体である結晶のサイズが重要なのです。
追い求める結晶サイズの上限を設定すれば、「足るを知る」ことができます。
小粒でピリリと辛い山椒の実が、高倍率接写には必要なのです。
5mmの完璧な水晶の結晶と、10cmのそこそこの水晶の写真を比べたら、5mmのほうがはるかにきれいな写真が撮れるんですよ。絶対。
また、観察力を養うことによって、いままで見過ごしていた、小さな珍しい鉱物に気付くかもしれません。
小さな結晶に出る、新しい晶癖や双晶を見出すことができるかもしれません。
そして、それをうまく写真に収めて、小さな結晶に息づくその美しさに感嘆できれば、この企画は大成功です。
スローライフならぬ「スモールライフ」で、もっと小さな小さな鉱物にも目を向けてみませんか?