閃亜鉛鉱

亜鉛鉱と水晶@ブルガリア
zincblende


亜鉛の鉱石鉱物としては最も馴染み深く、いたるところで見つけられる鉱物。
硫化亜鉛なんですが、亜鉛サイトを非連続的に鉄が置換します。
鉄が多いと黒−銀色っぽくなります。
純粋なものに近いと茶色−赤系統、あるいは緑色だったり。ホントに純粋なものは無色透明です。
私は高一のとき、水上の山で緑色透明の結晶を見つけたんですが同定ができず、しょうがないので無機化学の某先生のところに持っていって、初めて SEM*1と EPMA を取ってもらったら、果たしてなんのことはない閃亜鉛鉱だったのでした。
こいつにはホントに騙されます。
硫化鉛である方鉛鉱は、どんな人でも間違えることはないであろうわかりやすい鉱物なんですけど。
とはいえ、板状や棒状の方鉛鉱結晶もあったりするんですけどね。
粉末回折をはじめて自分でしたのは高二のときでした。


結晶学では「センアエン鉱型構造」でおなじみですね。
多形は「ウルツ鉱型構造」です。


この標本は四面体ベースです。


(crystallographic data) cubic, F-43m
(photo) Leitz Photar 80mm F4.5 (F = 16)/Multiphot/D3


亜鉛鉱にまつわるネタ。
鉱物の結晶がどのくらいの成長速度で、どのくらいの期間をかけて成長するかというのは、面白いけど調べるのがひどく大変な主題であります。
で、閃亜鉛鉱中の鉄の偏析と分布から、原子拡散と時間と温度の相関係数をはじき出せば成長速度計として使えるよ、という論文があります。
Mizuta, Toshio; Scott, Steven D. Kinetics of iron depletion near pyrrhotite and chalcopyrite inclusions in sphalerite: the sphalerite speedometer. Economic Geology and the Bulletin of the Society of Economic Geologists (1997), 92(7/8), 772-783.
あるスカルンで生じた閃亜鉛鉱の結晶は、350℃から成長をはじめて 0.1℃/1000年の冷却速度で冷え、21万年かかって245℃まで冷えて成長終了したのだそうです。
べらぼうに時間かかってますね。
あのね、おっさん。わしゃかなわんよ。


硫化亜鉛の用途の一つで、リン光材料という使い道がありますが、あれはどちらかというとウルツ鉱の方です。
ウルツ鉱はこの間青森でいっぱい見かけましたが、引越し荷物にまぎれてでてきません。
ウチの標本を掘り出して写真を撮るより、青森にもう一回行って採集して写真を撮るほうが早いです。
そういうことはよくあります。
たまに「ウチの主人は買ったのを忘れているのか、同じ本を二回も買ったりする」という話がありますけど、別に忘れているわけではないのです。
あるのはわかるんだけど、どこにあるかわからなくて、それをもう一回発掘発見する労力を時給に換算すると、もう一回買いなおしたほうがはるかに安いし、そのぐらい早急に資料が必要だから同じ本を二冊買うんです。わかってないなー。
とはいえ、「管理が悪い」というそしりは免れないでしょう。


人工結晶における閃亜鉛鉱のナノワイヤー、ナノロッド、ナノパーティクルってのは最近よく論文を見かけます。
ナノって付ければそれでいいのか、と小一時間。
気相成長したヒュームなんてほとんどナノメーターサイズの粒子だぞ、と。


この間のショーでは、尾去沢の立派な閃亜鉛鉱が売ってましたね。
あれ欲しかったなあ。
しかしぼくのおこづかいではあれはかえません。
しょうがないので掘りに行ってきます。

*1:走査電子顕微鏡。「そうさでんけん」というか「せむ」というかで世代がわかります