日々是怪談(工藤美代子)

三度の飯より怪談の好きな私ですが、この10年で一番感銘を受けたのはこの本でした。
工藤氏は多くの取材と資料調査で史実文学を書く、女流ノンフィクション作家なんですが、はっきり言って怪談エッセイの方がよほど好きです。
こわいのよ。この本。マジで。
何度も読み、何度も取り上げたこの本、何度開いてもゾクゾクします。
MFの「新耳袋」シリーズよりよほど怖いぞ。
体験に基づいたストーリーがあり、一話がちょっと長いのですが、少しだけ引用。

(前略)
 ねえねえ、チカちゃん、ハンサムで年下の男ってどう思う? と、二十四歳の姪に尋ねてもしようがないようなものだが訊いてみた。
 いいじゃない。今、年下って流行だもん。あっけらかんと答えるので、うーん、そいじゃあ、A山でデートってのはどうかね? と訊く。
 あっ、ダメだよ、あそこは。おばちゃんは絶対に行かないほうがいいよ。だってね、私たち中学の遠足でA山に行ったことあるんだけど、サキちゃんが大変だったのよ。
(中略)
 うん、サキちゃんがね、もう目眩がして頭がガンガンするっていって、バスから出ようとしなかったの。人間の手がいっぱい見えるんだって。それが引っぱり込むような動作をするんだって。気味悪いでしょ。でも私たちは全然平気なの。ハイキングに最高の山なんだけどサキちゃんだけアウトだった。おばちゃんもきっと変なものみるからやめておいたほうがいいよ。
(後略)

省略するとあまり怖くないのですが、この体験談的感覚女流小説風怪談ってのは怖いです。
男のいう怪談と違って、理屈や因果をこじつけたりしないんですね。
さらりとゾクリとするのです。
文庫が出ているらしいので、見かけたら立ち読みしてください。
夏に読んだら体感気温が2℃は下がります。


あ、ちなみに私、森瑶子好きです。大学時代にハマりました。