銅二次鉱物二種

珍しい、国産のラベンデュラン(ラベンダー石)。
広島、瀬戸田の南生口鉱山産です。はじめてみました。
これも bismuth さんの標本です。


ラベンデュランは、もともとはブライタップ(A. Bleithaupt) の記載*1によるもので、ドイツ、アナベルグから見つけられました。その後、チリ産のものは、ゴールドスミスによりまったく独立に記載されています*2.
実はその後、アナベルグのブライタップ標本は別の鉱物の混合物であり、鉱物種としてのラベンデュランは含まれていないということが、詳細な分析と、彼の残したタイプ標本の再検討から明らかになり、タイプ産地はヤヒモフ(チェコ)に変更になりました。


ラベンデュランの成分はかなり複雑で、ナトリウムとカルシウムと銅の、塩素を含んだ含水砒酸塩です。
海のそばで産することが多く、成分中のナトリウムと塩素は、海水からによるものが多いのでしょうね。
なかなか大きな結晶にならず、結晶構造解析はずっと成功していなかったのですが、最近になって、ラウリオン(ギリシャ)のサンプルを使い、ようやく CCD 二次元検出器による回折データの解析で精密な結晶構造が求められました*3。リン酸アナログの sampleite などは、シンクロトロンで回折データとってます。
銅4原子、酸素12原子、塩素1原子でクラスターを作り、これがシート状に並んだかなりヘンテコな構造です。


生口島は日本を代表する砒酸銅鉱物の大産地で、採石場に銅酸化帯がドカッと出てきたこともありました。
私も中学生、高校生の頃と2回訪れていますが、壁が真っ青になるぐらいでした。あれはすごかったですね。
南生口鉱山は、その採石場の裏側に相当するところだと思います。タングステンを狙った小鉱山です。


lavendulan
ラベンデュラン(ラベンダー石)(Lavendulan), NaCaCu5(AsO4)4Cl-5H2O, mon., P21/n
広島県尾道市瀬戸田町生口島 南生口鉱山
撮影幅 : 10 mm
Nikon Macro Nikkor 65mm F4.5/Nikon PB-6/Nikon D3




こっちは rosasite。
亜鉛孔雀石という名前が付いていますが、ロザサイトのほうが通りがいいでしょうか。銅と亜鉛の酸化帯に出てくる、塩基性炭酸塩です。
命名はイタリア、サルディニア島の鉱山名 Rosas 鉱山から。
ツメブのものや、オハエラのものがよく知られているんですが、モコモコした針状結晶の集合もしくは丸い玉になることが多いです。
普通は集合状態では不透明にみえるんですが、この産地のものは青色透明です。
なかなか可愛いですよね。
これも単結晶を得るのが困難な鉱物で、ごく最近になって、粉末パターンから結晶構造を起こすリートベルト法による解析で、マグネシウム置換体のマックギネス石とともに構造が報告されました *4
鉱物自体はもう100年以上前から知られているんですけど。


rosasite1


rosasite2
亜鉛孔雀石(ロザサイト)(Rosasite), (Cu,Zn)2(CO3)(OH)2, mon., P21/a
滋賀県湖南市石部 金山鉱山
撮影幅 : 8 mm
Nikon Macro Nikkor 65mm F4.5/Nikon PB-6/Nikon D3

*1:A. Breithaupt (1837): Bestimmung neuer Mineralien. 3. Lavendulan.- Journal für praktische Chemie 10, 505-506

*2:Goldsmith (1877) Proceedings of the Academy of Sciences Philadelphia: 192

*3:European Journal of Mineralogy; January, February 2007; v. 19; no. 1; p. 75-93; DOI: 10.1127/0935-1221/2007/0019-0075

*4:N. Perchiazzi(2006). Crystal structure determination and Rietveld refinement of rosasite and mcguinnessite. Zeitschrift für Kristallographie Supplements: Vol. 2006, Issue suppl 23, pp. 505-510.doi: 10.1524/zksu.2006.suppl_23.505